米国 北東部 排出量削減トレンド:持続可能なスマートグリッドのための重要な戦略

脱炭素化・CO2削減のトレンドは、米国のグリッド(電源)を変えつつあります。化石燃料への依存度を減らし、太陽光発電や洋上風力などの分散型エネルギー資源や、新しいエネルギー効率、デマンドレスポンス、エネルギー貯蔵、その他顧客ベースの技術に依存するようになってきています[i]。

蓄熱技術は、建物の運営者に柔軟性をもたらすため、この移行を実現するための重要な手段となっています。より多くの風力発電や太陽光発電がオンラインで利用できるようになることで、蓄熱技術は二酸化炭素排出量を削減するための鍵となると広く考えられています。このソリューションは、余剰な再生可能エネルギーを蓄え、再生可能エネルギーが利用できない場合に蓄えたエネルギーを放電します。

この傾向は、特に米国北東部で、有益な電化による電力供給の脱炭素化に向けて、電源の急速な近代化が進んでいることからも明らかです。燃料ミックスの変化に伴い、ニューヨークとニューイングランドの発電事業者(ニューヨーク独立系統事業者(ISO)とニューイングランドISO)は、系統運用を改善し、クリーンエネルギーの目標を達成するために、蓄電から蓄熱に至るまで、あらゆる形態のエネルギー貯蔵に着目しています[ii]。

しかし、最新のデータによると、蓄熱技術は自然エネルギーに対応するだけではなく、安価で排出量の少ないエネルギーを夜間に貯蔵し[iii]、排出量の多い昼間のピーク時にそのエネルギーを利用できるようにすることで、北東部全域の温室効果ガス(GHG)排出量を削減することができるといいます。蓄熱技術を利用すれば、建物や大学のキャンパスは、温室効果ガス排出量の多いピーク時の電力を、夜間の炭素集約度の低い電力と交換することができます[iv]。

ニューヨーク:クリーンエネルギー目標の達成

ニューヨーク州のクリーンエネルギー基準(CES)は、州の歴史の中で最も包括的で意欲的なクリーンエネルギー目標であり、州の脱炭素化[v]の推進力の一つとなっています。

以前のニューヨーク州では、州下地域の燃料ミックスには、東部海岸で最も汚く、最も炭素を排出する発電所がいくつか含まれていました[vi]。現在、ニューヨークの電力需要は、主にクリーンな水力発電と原子力発電で賄われており、「ピークに達しやすい」発電所は夜間に停止されています。

夜間は、これらのプラントは停止し、電源には主にクリーンな水力発電と原子力発電が用いられています。そして、州全体の需要が最も高い昼間は、蓄熱タンクにより蓄えられたエネルギーを使用して冷凍機の熱負荷を軽減するとともにピークユニットが使用されます。このため、蓄熱システムを利用することで、ニューヨーク州の送電網は、州内で最も汚染されたスモッグを発生させるピーク時の発電プラントの使用を削減することができます。

ヒートマップ

図. 年の月別、時間帯別の限界排出量。Y軸の1~12列は深夜から正午まで、3~24列は午後の時間帯。

出典: NYSERDA, NY DPS NYSERDA, NY DPS 2016.

ニューイングランド:排出量の削減

ニューイングランドでは、オフピーク時の限界排出量は、オンピーク時に比べて有意に-0.7%少ないことが示されています。[vii]ピーク時の排出量は、気温が最も高い時に最も高くなります。

ニューイングランドでは、高電力需要日(HEDD)は、一般的に気温が高く、冷房(エネルギー)需要が高くなることを特徴としています。HEDDのようなエネルギー需要のピーク時には、ISOはピークユニットに頼っています。ピークユニットは、それ以外の時期にはあまり利用されませんが、システムの需要を満たすために迅速に対応します。これらのピークユニットは、多くの場合、より高い排出率を持つジェットタービン(航空機エンジン流用)またはガスタービンです。[viii] - ISO-NE. 2019年4月。

調査によると、2017年の暑い「電力需要の多い日」の限界排出量は、ピーク時以外の時間帯に比べて34%も高くなっています。夜間に蓄えられたエネルギーに頼って日中に建物を冷やすことで、蓄熱技術はニューイングランドの温室効果ガス排出量に大きな影響を与えることができます。

この影響は、地域全体での風力発電のオンライン化が進むにつれて、さらに大きくなると予想されています[x]。

氷から熱へ:電化時代の蓄熱技術

近年、北東部全域の規制当局や政策立案者は、この地域の温室効果ガス排出量を削減する手段として、暖房の電化を受け入れています。

天然ガスを使用したボイラーから電気ヒートポンプに熱を移行することで、消費者や企業は化石燃料ではなく、よりクリーンな電源に依存することで、二酸化炭素排出量を削減することができます。

蓄熱技術は、まもなくこの変革の中で役割を果たすことになるでしょう。トレインは、暖房と冷房の両方のための蓄熱ソリューション、サーマルバッテリー(熱電池)蓄熱源ヒートポンプシステム(SSHP)を開発しました。

このシステムでは、標準的な蓄熱タンク(直径 約2.3m、高さ2.6m)により、約20億BTUの充放電サイクルを保持することができます。サーマルバッテリーSSHPは、一年で最も寒い時期に暖房用のエネルギーを回収することができ、冬のピーク期間にユーティリティーや各電源をより効果的に活用することに役立ちます。

蓄熱:今日の電源を活用しつつより持続可能に

蓄熱は、あらゆる形態のエネルギー貯蔵と同様に、長い間、持続可能な電源の必要な構成要素と考えられてきました[xi]。専門家や規制当局は、風力や太陽光のように、太陽が照ったり風が吹いたりしたときだけ電力を供給する可変的で断続的な資源の需要と供給のバランスを取るための鍵となる手段として、エネルギー貯蔵を考えています。北東部の燃料構成が変化していく中で、蓄熱はさらに大きな成果を上げることができます。

多くの点で、蓄熱システムは北東部全体の温室効果ガス排出量を削減するために理想的です。長期にわたって費用対効果の高い排出が可能であること、燃料構成が最も炭素集約的な夏の暑い日に最大の効果を発揮すること、そして発電設備がこの地域で最も大気汚染物質を排出するニューヨーク市のような人口密集地に設置されていることが多いことです。米国北東部の電源が猛烈なスピードで変化を続ける中、蓄熱技術はエネルギーシステムの形成とバランスを整える上で重要な役割を果たし続けるでしょう。

 

【出典】

[i] See for example, NYISO Power Trends 2019. P. 29. Also, ISO New England 2017 Air Emissions Report. P. 29, and  A New World, The Geopolitics of Energy Transformation

[ii] Energy Storage, New York State, a program of NYSERDA, https://www.nyserda.ny.gov/All-Programs/Programs/Energy-Storage and See for example, NYISO Power Trends 2019. P. 29. Also, ISO New England 2017 Air Emissions Report. P. 29

[iii] See for example, NYISO Power Trends 2019. P. 29. Also, ISO New England 2017 Air Emissions Report. P. 29.

[iv] ibid

[v] CES Resources, New York State, a program of NYSERDA, https://www.nyserda.ny.gov/All-Programs/Programs/Clean-Energy-Standard/Important-Orders-Reports-and-Filings

[vi] See for example, “Governor Cuomo Announces Proposed Regulations to Improve Air Quality and Reduce Harmful Ozone Caused by Power Plant Emissions.” NYSERDA Press Release, 28 February 2019.

[vii] ISO New England 2017 Air Emissions Report. P. 29

[viii] ibid. P. 18.

[ix] ibid

[x] ibid. P. 7

[xi] See for example: U.S. Department of Energy. “U.S. Department of Energy Launches Energy Storage Grand Challenge.” Press Release, 8 January 2020.

 

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