低炭素社会の実現に向け、ノンフロンまたは低GWP(地球温暖化係数)の「次世代冷媒」への移行が求められています。しかし次世代冷媒の中には微燃性のものもあり、特にパッケージ製品用冷媒の多くが微燃性になるとも言われています。
今後、このような微燃性(A2L)冷媒を使用していくため、昨年11月に高圧ガス保安法の冷凍保安規則が改定され、微燃性冷媒であるR-32、R-1234yf、R-1234zeが新たに「特定不活性ガス」として区分、日本冷凍空調工業会(JRAIA)により要求事項や施設ガイドラインが制定されました。そこで今回はその概要をお伝えします。
「特定不活性ガス」冷媒機設置時の義務
「特定不活性ガス」冷媒機は、冷凍保安規則上では不活性ガスになりますが、実際には燃焼の可能性があるため次の二つが義務付けられました。
(1) ガスの漏えい検知と警報する設備の設置
当該施設から漏えいするガスが滞留するおそれのある場所に、当該ガスの漏えいを検知し、かつ、警報するための設備を設けること。
(2) 冷媒ガス漏えい時の適切な措置
冷媒ガスが漏えいしたとき燃焼を防止するための適切な措置を講ずること。
新しく制定された要求事項および施設ガイドライン
「特定不活性ガス」冷媒機に要求される二つの義務を果たすために、日本冷凍空調工業会(JRAIA)において、実際の設置物件で求められる対策が具体的かつ対象機種により個別に定められています。以下の表は微燃性冷媒に関連して制定されたJRA規格の一覧です。
注記:2017年4月12日時点で、JRA GL-20は未制定
チラー製品の施設ガイドライン
表のうち、ターボ冷凍機を含むチラー製品に関連する施設ガイドラインは「JRA GL-15」、また冷媒漏えい検知警報器の要求事項は「JRA 4068」です。これらのガイドライン・要求事項のうち、重要と思われるポイントを以下に抜粋いたします。
JRA GL-15 施設ガイドライン(抜粋)
参照: 一般社団法人日本冷凍空調工業会 「微燃性(A2L)冷媒を使用したチラーの冷媒漏えい時の安全のため施設ガイドラインJRA-GL-15」
1.適用対象
冷媒として大気圧における標準沸点が-150℃以上、+50℃以下の範囲にあるもののうち、微燃性(A2L)冷媒を使用する、蒸気圧縮式チリングユニット、スクリュー冷凍機及び遠心式冷凍機。なお、移動式冷凍設備、及び7.5kW未満の冷凍設備は適用除外。
2.機械換気装置(4, 4.2.2)
KHKS 0302-3(2011)の3.2.3.2 (機械換気装置)c), d), e), f)に加え、次のものを満たすもの。
- 冷凍設備運転及び停止中に関わらず機械換気装置は運転する。
- 換気装置のダクトは、燃焼装置を有する火気設備の排気ダクトとは別にする。
- 機械換気装置の換気能力が失われた場合に、冷凍設備の連動をとる。(換気能力が失われた場合、冷凍設備は停止)
- 2系統以上の換気装置を設置。また、2系統は別電源とする。(別電源:配線遮断機を分ける)
- 換気能力は次式で求める。 但し、最小能力は1回/hとする。
- n=380/V (小数点第2位を四捨五入)
- n:換気能力 (回/h)
- V:冷凍装置を設置した区画の基準容積 (m3)
- 基準容積 V=冷凍設備が設置された区画の面積×外気が導入される開口部から床面までの高さ
- n=380/V (小数点第2位を四捨五入)
3.警報装置発報時の対応(4.3)
冷媒ガス漏えい検知警報設備が検知し発報した場合の対応
- 携帯形漏えい検知器にて冷媒濃度が警報設計値を下回ったことを確認するまで入室・区画の立ち入り、冷凍設備を起動してはならない。
- 発報時に室内、区画に居る場合は直ちに退出しなければならない。
4.長期停止時の復旧(4.4)
冷媒ガス漏えい検知警報設備が検知し、かつ機械換気設備が長期停止している状態で冷凍設備を復旧する場合
- 機械換気装置を20分以上運転し、冷媒濃度が警報設定値を下回ることを確認するまで、室内・区画への立ち入り、及び冷凍設備の起動をしてはならない。
5.冷凍装置の設置場所の構造(6.2)
機械室及び低圧容器室は、KHKS 0302-3 (2011) の5.2(冷凍装置の設置場所の構造)
a), e)~m) と、次による。
- 2箇所以上の出入口を設け、少なくとも一つの出入口は直接屋外に通じる位置に設け、又は通路、ロビーなど、避難上支障のない場所を通って屋外に通じる位置に設けられていなければならない。
- 開口部(窓、換気口など)は、避難通路又は地下室への通路及び階段に面して設けてはならない。
- 4.2.2に定める機械換気装置を備えなければならない。
6.火気との距離(6.3.1)
冷媒設備は、付近に火気のない室、又は場所に設置する。但し、火気の区分毎に決められた距離以上の隔離をとった場合はこの限りではない。(JRA GL-15の表4, 表5)
- いかなる場合も火炎が吹き出すものは禁止で、ストーブ、コンロ、種火のあるガス給湯器等の裸火持込禁止
- 給気及び排気ダクトは不燃材料で作られた専用のものとし、排気ダクトは防熱処理により十分表面温度が低く保たれ、排気が直接屋外に排出されるもの。
- 設置工事、改修工事等に使用する工事用火気は例外とする。使用する場合は、常設及び十分な仮設の機械換気装置を用意し、充てんされている冷媒がA2L冷媒であることを表示する。
7.冷媒ガス放出管の構造(6.6.2)
KHKS(高圧ガス保安検査基準) 0302-3 (2011)の5.6.2 (冷媒ガス放出菅の構造) a), b), f)~i)と次による。
- 放出管の開口部は、噴出冷媒ガスが直接第三者・財産に危害を及ぼすおそれがなく、十分に拡散できる高い位置に設ける。
- 放出管の開口部は、近接する建築物又は工作物の高さ以上の高さであって、周囲に火気のない安全な位置とする。
- 放出管の開口部は下向きとせず、かつ、雨水が侵入しないようにし、かつ、鳥類が営巣することのないようにする。また、配管内での水の蓄積・凍結及びごみの蓄積などを考慮する。
JRA 4068 冷媒ガス漏えい検知警報器(抜粋)
冷媒ガス漏えい検知警報設備については、「JRA 4068」のガイドラインに従う必要があります。微燃性冷媒ガスの漏えい検知警報器に関する規格はこれまではなく、新たに冷凍空調機器に使用する検知器として仕様が規格化されました。
1. 冷媒ガス漏えい検知警報設備の種類・性能・点検・設置場所・試験方法:JRA 4068による
2. 冷媒ガス漏えい検知警報設備の機能・構造:JRA 4068及びチラーではJRA GL-15の6.7.1と6.7.2による
3. 検知警報設備の設置個所及び設置個数:JRA GL-15の6.7.3による。要点は次の通り
- 検知警報設備の検出端は、冷媒ガスが滞留しやすい場所に少なくとも1つ以上設置する。
- 検出端の設置する高さは床面から0.3m以下の高さに取り付ける。また作動妨害や設定値の変更がされないように保護する。
- ランプの点灯又は点滅及び警告音を、関係者が常駐する場所で、警報を発した後に対策を講ずるに適切な場所に出す。
- また、警報を発生する機器の少なくとも1つ以上は室外に設置され、室内の安全が濃度表示もしくはリセット等により規定濃度以下であることが室外から確認できる機能を有すること。
参照: 一般社団法人日本冷凍空調工業会 「冷凍空調機器に関する冷媒漏えい検知警報器要求事項 JRA 4068」
注記:ガイドラインにおける毒性標記
ガイドラインでは「冷媒ガスの加害性」の区分において、A区分が「毒性なし」、B区分が「毒性あり」と記載されています。
しかしながら、実際にはA区分が「より低い毒性」で、B区分が「より高い毒性」であり、どちらの冷媒も安全に使用していただくことが可能です(ASHRAE34 安全等級参照)。ユーザーにとって、微燃性冷媒が使用された機器を選択する際は、これらガイドラインを正しく理解した上での設備導入が重要となります。
参照:一般社団法人日本冷凍空調工業会 「微燃性(A2L)冷媒を使用したチラーの冷媒漏えい時の安全のため施設ガイドラインJRA-GL-15」(P.2)